ホテルに誘われたとき、どう断ればいいの?

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高村さんは、ゆっくり唇を離すと、「そろそろ次の料理が来るだろうから」と言って元の位置に戻った。
顔の前で手を組み、余裕タップリの表情で私を見つめる。
真っ直ぐな目に弱かった。「理恵子が思っていることは全てお見通し」だと言われているようで。彼のペースに引き込まれそうで怖かった。

「ホテルまで、そう遠くないだろう? 手を繋いで歩いて行こうか?」
「なっ……?!」
「それとも、何処か行きたいホテルでもある?」
「ちょっ……高村さん! どうして行くか行かないかの選択肢を与えてくれないんですか? 行くなんて行ってないのに……」

「ダメ?」
「ダメですよ!」
「どうして?」
「どうしてって……」
ダメ、ダメ、絶対ダメ!
でも、何て言えば納得してもらえる?

「ほ、ほら! 今からホテルに行ったら、21時を過ぎるでしょう?」
「そうだね、それで?」
高村さんは、ニヤリとして私の話を聞いている。

「終電に間に合わないから……」
「終電に間に合えばいいの?」
終電に間に合えば大丈夫って意味じゃなくて、違うことを言わなくちゃ。

「やだ、そんなの! 数時間しかなかったら、ただの『性処理』と同じだよ。やっぱりそういうことをしたら、2人でゆっくりと」
色んな断り文句を並べながら、自分が何故「ホテルに行きたくない」と主張しているのかがわからなくなってしまった。キスを受け入れ、抱きしめてほしいのに、肌を重ねることはダメ。わたしは滑稽なことを言ってるんじゃないかとさえ思えてくる。

「ハッハッハッハッ……!」
「……」
「理恵子は、ジックリとオレに抱かれたいんだね? よく分かったよ」
「……今の断り方だと、そう解釈されますよね」

「ちゃんと時間を作ってから、理恵子をホテルに誘うよ」
「あの」
「今日は、ちゃんと帰してあげるからね!」
「えっと」
「理恵子みたいな美女はジックリ、ジックリ『味わう』ことにするよ……クックックッ!」
「高村さん、何を考えているの?」
「何をって、理恵子はどこを攻めたら1番喜ぶのかと考えてるけど?」

「高村サン、ワタシ何ヲ言ワレテルカ、サッパリワカリマセン」
「大丈夫、大丈夫、ジックリと『探って』いくから!」
「なっ……!!」
「次は、いつ会おうかな? なるべく早く理恵子と会いたいな」

どうしよう。高村さんがどんどん話を進めてる。話をやめさせるには、どうしたら……?

「理恵子、明日にでも……」
「たっ、高村さん! これ、凄く美味しい! ほら、アーンして?」
ーー私は咄嗟にキレイな焼き色のついたイベリコ豚を強引に高村さんの口へ運んだ。
食事をするためにここにいるのに、ホテルに行く話ばかり。隣の個室に聞こえてたら、絶対に笑われてしまう。どうしよう!

「理恵子、ちょっと大きくないか? 飲みこむまで時間がかかるぞ」
「ふふ。もう一口いかがです?」
「理恵子、もういいから」
高村さんは、時間をかけてイベリコ豚を飲みこみ、ニヤリとしながら私を見た。思いつきで口を封じたところで、彼は全くひるまない。むしろ、必死になる私を眺めて楽しんでいるようにも見えた。
店に入ってから1時間は経過しただろうか。いつの間に、ホテルに行くか行かないかの話になっていたのだろう?

私はすっかり高村さんのペースに引き込まれてしまった。