知らない間に好きになっていた。

【恋愛遊戯 第8話】
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「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
イベントは無事に終了して、2人だけの食事。高村さんから「1人では入りにくい」なんて、とってつけたような理由で誘われた。

「高村さん」
「どうしたの?」
「今日は、本当にありがとうございました」
「お礼を言うのはオレのほうだよ、ありがとう。理恵子のおかげでイベントが成功したよ」

「そんな、私のおかげだなんて……始まる前に高村さんに緊張をほぐしてもらえたから、上手く出来たんです。あのとき、何も言われなかったら、私は何も出来なかったと思います」

「知らない人間に囲まれて仕事をすれば、緊張するからね。それに、理恵子は今にも泣きそうな顔をしていたから。でも、可愛いかったなー」

「ちょっ……高村さん!」

「そうやって、恥じらうところも可愛い」

「すごく恥ずかしいです」

高村さんは顔の前で手を組み、ニヤリとしていた。真っ直ぐな目で私を見つめていて、視線を合わせることが出来ず、顔を背けてしまう。

「そんなに可愛く恥ずかしがっているところを見ると、抱き締めたくなってしまうなー」

「何を言ってるんですか!」

「理恵子が拒否すれば、しないよ。拒否すれば……だけどね」

またからかわれているの? 30代にもなって、恥ずかしがるのは珍しいのだろうか。面白がって褒めたり、口説いたりしているようにしか見えない。

それにしても、拒めば抱き締めたりしないなんて、余程の自信があるのだろうか。どうせ嫌がらないだろう、喜んで受け入れるに違いないというニュアンスにも受け取れる。ここまでハッキリと言われたら、自分自身も彼を押し戻せるかと不安になってくる。

まさか、何もしないよね?

「あっ、そうそう」と言いながら、高村さんは鞄の中から封筒を出し、私に差し出した。
「この封筒は何ですか?」
「今日のお給料」
「いえ、これは受け取れません。お気持ちだけで十分ですから」
「今日は仕事として来てもらってるんだ。当たり前だろう? それに、会社から出ているのだから理恵子が受け取らないと困るんだよ」
「そうですか。では遠慮なく頂戴します。ありがとうございます」
「それじゃ、すっかり遅くなってしまったから帰ろうか?」
「ハイ」

ーーなんだろう?
店を出た途端、足に重りでもついてるみたいに思うように進まない。モヤモヤした気持ちだし、高村さんと、もう少し一緒にいたい。帰りたくない。
「どうした? 具合でも悪い?」
「えっ?!」
「歩くペースが遅いみたいだけど?」
「いえ、大丈夫です」
「それと急に口数が減ったし」
「だ、大丈夫ですから……」
「理恵子、嘘をついてる」
「高村さん? 手を引っ張らないで! 痛い!」

近くの路地裏に連れ込まれるなり、高村さんにジッと見つめられた。
「気にかけてしまって、ごめんなさい。私は……」
唇を塞がれ、最後まで言うことが出来なくなる。

好きじゃないって思っていたのに。彼は冗談を言って、からかっていると言いきかせてきたのに。
もう否定ができない。私は、彼のキスを受け入れてしまった……。
自分でもやっと気がついた心の中は、あなたには最初からお見通しだったの?!

私は、高村さんのことが好きだっていうこと。

著:よしい美玲
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