【恋愛遊戯 第2話】
次の日の夕方。
アイちゃんが同伴で行くという、ワインの美味しいお店での待ち合わせは、私を緊張させ、自分の意思に反して震えだす。
私の給料では、かなり気合いを入れないと入れないような高級そうな店構えで、どうしたらいいのかわからない。こうなったら、アイちゃんの真似をしていよう……。
「さくら!」
ーー知らない名前を呼びながら「彼」は、私たちに近づいている? さくら? さくらって誰?
「さくらは、アイの源氏名です……」
アイちゃんが横で囁き、謎が解けた。キャバ嬢だから源氏名で呼ばれるんだ。お店以外で会うときも“さくら”なのか。
「高村さん、お仕事お疲れさま♪ こちらは、会社のセンパイで……」
「はじめまして、北原理恵子です。いつも、アイちゃ……さくらちゃんがお世話になってます」
「クックックッ……!」
自己紹介をした途端、笑われちゃうなんて! 何が面白いっていうの?
(アイちゃん?! 私、何か変だった?!)
「高村さん! 理恵子センパイ、緊張してるんです。高村さんがあまりにカッコイイもんだから……ね? センパイ?」
「すみません、初対面で緊張してしまって。こういうお店にも実は慣れていないんです」
「ゴメン、ゴメン。高村康史です、よろしく」
「よろしくお願いしますっ!」
「クックックッ……さくら、本当にこの人?」
「今は緊張してるけど、絶対大丈夫だから! さくらが知ってる中で1番だもん!」
「センパイ、あのね? 高村さんに紹介するなら、センパイ以外いないと思ったから、既にセンパイのことを話してあるの」
「そうだったんだ……」
きっと、いやらしい顔をしたおじさんが来るのだという私の予想は裏切られ、目の前にいる男性はスラッとして背が高く、キャバクラ通いをしているようには見えない人だった。いや、私が夜の世界を知らないだけで実際にキャバクラに行くような人は、こんな人ばかりなの?!
「今度、会社でイベントをやることになったけど、ターゲットが30代以上なんだ。だから、さくらに大人の女性の知り合いはいないかって頼んだんだ」
高村さんがゆっくり話し始めたときには、緊張が解けたのか。手の震えは止まっていた。優し
そうな人で良かったと胸を撫で下ろす。
「……それで、私に?」
「引き受けてもらえるかな?」
「私でよろしければ、やらせて下さい」
「やった! 決まりですね? 高村さん!」
「ありがとう。イベントの詳細の資料を会社に置いてきてしまったんだ。説明したいこともあるから、近いうちに会社に来てもらいたいんだけど、週末は空いてるかな?」
「ハイ、大丈夫です」
「じゃあ、土曜日の10時でいいかな?」
「わかりました、よろしくお願いします」
結局、自己紹介程度で終わり、イベントの話はほとんどしなかったけど、大丈夫なのだろうか? それに、簡単に約束してしまったけど、高村さんの会社に行くなんて、また緊張してしまいそうだ。
「理恵子センパイ」
「なに?」
「高村さん、ホントにカッコイイでしょう? 47歳に見えないでしょ?」
「えっ? うそ、47歳? 若いんだね!」
「理恵子センパイ、恋しちゃダメですよ? 高村さん、無類の女好きだから」
高村さんは、アイちゃんのお客様ということもあり、適当に話を聞き流していた。
そっか、女好きか。
キャバクラに行くんだから、当たり前といえば、当たり前だよね。
ーーはっ?! 私が女好きの男なんて、好きになるわけないじゃん!
著:よしい美玲
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