人生思い描いた通りにいかないときに心がけるたったひとつのこと

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【佐伯紅緒のスーパーカミオカンデ】第143回

いつだったか、昔、朝ドラを観ていて「ほーお」と印象に残るシーンがあった。

 

確か、教師かなにかを目指してたヒロインの話だったと思うんだけど、それがいともアッサリと夢を諦めて主婦となり、あげくダンナが失業してしまって仕事がないという展開。

子供もいるし、それで妻であるヒロインが代わりに働きに出るんだけど、彼女が稼げば稼ぐほど、ダンナがどんどん不機嫌になっていく。しまいには酒びたりになり、女の気配なんかもチラホラ。

そこで妻は一計を案じ、ある朝、突然宣言する。

「私、今日から働きません。家事に専念させていただきます」。

 

するとなにが起こったかというと、ダンナがたちまち頑張って働くようになったのだ。

えーそういうもんなのお、と子供心に首をひねった記憶があるんだけど、大人になっていろんな事例を聞くうちに、それってけっこう心理だな、と思うようになった。

なにしろ、女が働きすぎるせいでダメになってく男を山のように見てきたから。

男には、女があえてブラ下がったほうがよく働いてくれるタイプがいる。

それを奥さんが頑張りすぎちゃって結局は家庭崩壊、なんていう話はゴロゴロしてる。

女に選択肢が増えた分、面倒くさい時代になったなあ、と思う。

 

誤解のないよう言っておくけど、私自身は子供の頃から、女はなるべく経済的自立をするべきだと嫌というほど思い知らされてきた。

なにしろ、父が何かあるたびに包丁を持ちだして暴れる人だった。私が幼い頃、一家が父だけの収入で支えられていた頃の家は本当に殺伐としていた。つまらないことですぐ父は包丁を手に怒鳴り出し、私はそのたびに妹の手をひき、粛々と近所にある親戚の家に避難した。

あの頃、家の中が毎日暗くて本当にイヤだった。ご飯の炊き方がゆるいとか、目玉焼きの焼き具合が悪いとか、そういう、くだらないことですぐ包丁の出番となった。

それが、母が外に出て働くようになり、状況は一変した。

それまで黙って父の暴力に耐えていた母が次第に強くなり、ヘタをすると包丁を手に暴れる父をねじ伏せるようになったのだ。

子供心に、女が経済力を持つってつまりこういうことなのか、と感心した。

 

そんな家に育った私だから、当然、結婚願望はゼロ。結婚生活なんてモノには夢の持ちようがなかったし、小学校の時についたアダ名は「一生独身」。(子供って残酷ですよね)

大学を出て就職するときも、同期のNちゃんなんかは「少しでも稼ぎのいいダンナさんがつかまる場所に行きなさい」という親のススメに素直に従い、M商事だのS銀行だのの内定とりに走り回っていたのに、私があの未曾有の売り手市場で就職先として選んだのは、

「行けば誰でも内定をくれると評判の百貨店」だった。

まさに、女としても生物としても、本能が壊れているとしかいいようのない選択である。

 

「何年か勤めて寿退社」なんて自分には都市伝説だと思っていた。

かといって総合職になれるほどの頭もなく、特殊技能があるわけでもない。

人とのコミュニケーションもヘタだった私がひとりで、できれば文章を書いて生きていくには、なるべくたくさんの人を「観察」し、苦手な接客業をすることで人馴れできる場所に行くしかないだろう、と思ったのだ。

そこには大したビジョンもなく、ほんとうにノリはテキトーだった。

富士山にTシャツ短パンで出かけるバカな登山客のようなものである。

ちなみに、マスコミや出版社は全部落ちた。当時からそのての企業は大人気だったので、優秀でない私はそういう場所には鼻にもひっかけられなかったのだ。

 

それでフタを開けて20年、どうにか作家になりました。

なにより意外だったのは、結婚してしまったこと。

実の親に「お前のような変人は嫁の貰い手がない」と言われ続けてきた私ですが、ドイツには『どんなナベにも合うフタがある』という諺があるらしい。結婚相手は私をはるかに凌ぐ変な人だったので、三千世界というのはまことにダダッ広い場所なんだとつくづく思う。

で、すっごい長くなってしまったけど、今日、この文章を書いたのには実はふかーいワケがある。

最近、さっき書いた大学の同期・Nちゃんのその後の消息を聞いたのだ。

同期の中でいちばん結婚願望が強かったNちゃんは、就職第一希望だったM商事に入ったものの、社内婚活はうまくいかず、見合いも50回以上したけど全部失敗。その後、30歳を過ぎたあたりからマスコミの仕事に恵まれ、今や「文化人枠」として確固たる地位を築いているというのである。

 

えーなにそれ? ちょっとご勘弁、もうわかんないわかんなーい。人の人生ってホントわからん。

「女の人は髪が長いほうがいいってお父様が言ったからァ」と面接官の前でこれみよがしに髪をすいて内定をもらったNちゃん、その彼女がバリキャリになり、

「どうせ一生独身なんだから自社ビルのひとつも建ててやらあ」とえらそうに息巻いてた私がバリキャリとは程遠い生活を送ってる現実。

人生って本当に思い描いた通りにはいかないもの。いく人も中にはいるんだろうけど、そんな人はほんの一握り。だから私は提案します。

人生、なかなか思い通りにいかないことのほうが多い。だから、そんなときにこころがけるべきたったひとつのこと、それは結局、

「レモンがあったらレモネードをつくれ」

(得たものや置かれた状況を最大限に活用しろ)

だと思うんです。

ちなみに私、よほどのことがない限り今でも包丁はとぎません、ハイ。