異性問題がからむと人が変わったようにおかしくなってしまう人がいます。
恋わずらい、とかそんな健全なんじゃなく、本格的に狂うのだ。
多くのひとは恋愛モードに入ると、普段は心の奥底にしまってある、他人に触れられたくない弱い部分が丸出しになるんだけど、これはいわゆる恋の地雷、英語で『プッシュザボタン』と呼ばれるものです。
うっかりそのボタンを押されてしまうと、ひとは自分でも思いもよらない反応をしてしまう。
普段は礼儀正しい人が、ふとなにかの一言でひとが変わったように口汚い言葉で相手を罵ったり、ひどいときにはその相手に暴力をふるったりしてしまう。
逆に自立心旺盛にみえた人が、なにかの拍子に信じられないほど依存心のつよい部分を露呈してしまう。
これは普段、本当の自分を抑圧してる人にものすごく多いんだけど、いったんこの『プッシュザボタン』が起こるともう恋愛どころの騒ぎじゃない。下手をすると日常生活までぐらついてしまいます。
そして昨今、人間関係に不器用な人の大半が、このやっかいなボタンを持っている。
で、さらにやっかいなことにこのボタン、いつ、どこで押されるのかは本人にさえわからない。
この問題、一体どう対処すればいいのでしょう。
いちばんの解決策は、自分自身がこのボタンの存在に気づき、取り扱い方を覚えること。
そして次に、このボタンの存在を理解してくれる人の協力を得ること。
恋とは基本的に痛いもの。
恋の喜びは、必ず痛みとワンセットになってやってきます。
そもそも「あんな人はやめたほうがいい」とわかっている相手にほど惹かれてしまうのが恋というもの。
しかもこちらから惚れてしまった場合、あなたのほうが相手より多くの痛みを背負うハメになる。
そして悲しいことに、恋というのは仕事と違い、努力すればうまくいくというものではない。
仕事なら頑張ったぶん結果がついてくるものだけど、恋愛の場合、その頑張りがかえって「ウザイ」と嫌われる原因になる。
だったら恋愛なんかせず、ひとりで仕事だけに生きたほうが楽でいいじゃないか、と思いたいとこだけど、ほんとうに心からそれでいいって言える人にはあんまり会ったことがない。
本音をいえば誰しも、恋人や生涯の伴侶は欲しいけれど、ボタンを押されるのはいやだ、というのが正直なとこじゃないでしょうか。
でも周りを見てますと、このやっかいなボタンを持っていても、幸せな恋愛や結婚をしている人はいっぱいいます。そういうカップルを観察してると、必ずその人の交際相手はこのボタンの存在を知っている。
「この人はこの辺を押すとすごく痛がるから」という、ボタンの存在とからくりをちゃんと理解してるんです。
佐伯の好きな萩尾望都の漫画に「イグアナの娘」という短編があります。
名作なので親子関係やきょうだいの確執に悩んでる人は是非読んで欲しいんだけど、このヒロインは実の母親から「おまえはイグアナよ」と言い聞かされて育ちます。おまけに可愛い妹と比較され、心の中はトラウマでいっぱい。
本当は美人なので妹にしてみれば姉の葛藤が不思議で仕方ないのですが、姉であるヒロインは母親の執拗な刷り込みのおかげで、鏡を見れば実際に自分の顔がイグアナに見えています。
そして、イグアナである自分はどうせ男をかみ殺してしまうだろうから、となかなか自分から男性に心を開こうとしないのですが、ある日、自分がかみついてもビクともしない男性と出会ったことで、「このひとなら大丈夫かも」と結婚に至ります。
そして自分の母親が死んだときに衝撃の事実を知り・・・というストーリーです。
ようするになにが言いたかったかというと、自分のボタン(傷)はまず自分で自覚し、それをきちんと理解してくれる人と付き合うのが一番だということ。
理解してくれる人とは、あなたがボタンを押されておかしくなってもそれなりに対処してくれる人です。
ただ、現実はこういう人に限って似たようなボタン持ちの人間をひきつけ、最初はもちろん話が合うので大いに盛り上がるのですが、そのうち血みどろのボタンの押し合いになり、破局にいたるというケースが多い。
もちろん、この組み合わせ自体がいけないってわけじゃないけど、この場合、うまくいかせるには、少なくとも片方がこのボタン問題を乗り越えている必要がある。
相手がどんな態度をとっても、今相手の心の中で何が起こっているかを読み取ろうと努力し、相手の挑発を鵜呑みにしないでニュートラルでいる必要があります。
あなたには相手を変えることはできません。
相手があなたにやさしく接したいかどうかは相手が決めること。
あなたにできるのは、相手がなにか言ってきたらこちらは笑顔で接すること、やさしくすること、イライラしないこと、あと期待をしないことです。
そうすれば、やがて相手からも好意的な反応が返ってくる可能性が増えます。
そして、そのあとそのボタン持ちとの関係をどうするかはあなた次第。あなたが自分の心の声を聞き、正直な気持ちに従えばいいだけ。
以上、かつてボタン持ちばかりに時間をさいてきた佐伯のひとりごとでした。