ラファエル前派の女たちに学ぶ、男を踏み台にしてのし上がるテク

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【佐伯紅緒のスーパーカミオカンデ】第123回

突然ですが、アナタは女として次のことをひとつでもやったことがありますか?

 

・社会的ステイタスのある夫を持ち、その弟子とも関係をもつ

・さらにはその夫を捨て、芸術家であるその弟子とアッサリ再婚してしまう

・そしてその芸術家とのあいだに子供をゾロリと8人産む

・自分を嫁にするため育ててくれた裕福な男を裏切り、これまたもっと裕福な男と結婚して社会的地位を手に入れる

・夫と恋人の両方に自分の肖像画を描かせ、後世に名を残す

先日、今六本木ヒルズでやってる『ラファエル前派展』に行ってきたんですが、あそこに描かれてるきれいなお姉さんたちのやってたことって、まあつまりそういうことなんです。

ラファエル前派というのは19世紀中頃、ヴィクトリア朝のイギリスで起こった若き芸術家たちのグループ。ようするに「まあカタ苦しいことはやめて、画家ラファエロの宗教画のコピーばっかりやってる時代の前に戻りましょうよ」という、大変にあっぱれな趣旨の集団だったわけです。

具体例をいいますと、キリストを普通の大工の息子として描いちゃったり、羽のついていない天使ガブリエルと普通のおねえちゃんにしか見えない聖母マリアを描いちゃったり、まあ当時からそんな感じだったので、重鎮には罵倒され、いろいろ物議をかもしてたらしい。

で、自由をモットーをするからには、当然、女性出入りも激しい。

だから、このラファエル前派のまわりにはたくさんのミューズがいます。

ウイリアム・モリスの妻でありながら画家ロセッティとも関係を持ったジェーン・モリス。

ロセッティの最初の妻で阿片中毒で夭折した、かのミレーの名作『オフェーリア』のモデルとなったエリザベス・シダル。

評論家ラスキンを捨て、ミレーとの間に8人もの子供をもうけたユーフェミア・グレイ。

ロセッティの愛人であり、終生の友人でもあった娼婦ファニー・コンフォース。

ホルマン・ハントのマイフェアレディの座を蹴り、別の男に嫁いだアニー・ミラー。

バーン・ジョーンズ夫人として、彼の浮気に耐え続けたジョージー・バーン・ジョーンズ・・・。

彼女たちの多くはその出自が娼婦だったり、貧民街出身の娘だったりで、ラファエル前派の画家たちはそういう、身分が低くて美しい女性を見出しては次々と声をかけ、モデルとして使ううちに『男女のドロドロ』が広がっていった。

でも見出された女性たちにしてみれば、女は当時コルセットに縛られ、なんのチャンスもなかった時代。武器といったら自分の美貌と生まれつきの才覚だけ。

そんな彼女たちに、「コルセットなんかやめちゃえよ」ととっぱらい、上の世界に行くチャンスを与えてくれたのがラファエル前派の彼らだったわけです。

その多くが「いいとこのお坊ちゃん」集団であった彼らは、まず彼女たちのコルセットを脱がせ、代わりに森ガールみたいな服を着せた(その方が脱がせやすいからでしょうな)。

そして、アーサー王伝説の女性やらギリシャ神話の女神たちになぞらえ、彼女らの肖像を意欲的に描いていった。

だからもう本当に、彼らのいろんな絵に描かれてるそうそうたる美女たちって、現存するモデルたちの写真の顔そのままなの。もう当時の愛人だってバレバレ。ここまでてらいがないとむしろ感動。

そして時代の洗礼を経てみれば、結局、新しいキリストだとかマリアだとかいう画期的な試みは忘れ去られ、そのきれいなお姉さんたちの肖像が後世に残ったわけです。その興味深いウラ話も含めて。ゲイジツって本当に、なにがどうなるかわかんないよね。

で、芸術的なナンタラはさっぱり理解できない佐伯ですが、それでも学生時代はバイトしてはせっせとイギリスに通い続け、この一連の絵が展示されてるロンドンのテートギャラリーに入り浸ってた。

その理由は、ひとえにこのラファエル前派の男性陣、そして、そのまわりを彗星のようにまわる妻や愛人、モデルたちとの「男女のドロドロ」が大好きで、このきれいなお姉さんたちがいかにしてこの画家たちの寵愛を勝ち得たか、その秘密をムスメ心にも知りたくてたまらなかったからです。

なかでも心惹かれたのは、「ラファエル前派といえばこの一枚」と言われるほど有名なあの黒髪の青いドレスの女性の絵「プロセルピナ」のモデルとなった、ウイリアム・モリスの妻ジェーン・モリスの存在。

ラファエル前派の中心人物であるロセッティのミューズとなったジェーンは、モリスの妻でありながらロセッティとも関係を持つ。ロセッティはひと目見て人妻である彼女に惹かれ、夫のモリスとの間に奇怪な三角関係ができあがるのですが、以後、ロセッティが描く女性の顔はほとんどこのジェーンになっていく。

私はどうしてこのジェーンがこれだけモテたか知りたくて、いろんな資料を読み漁ってはその秘密をさぐろうとした。自分でいうのもナンだけど、はたちの情報収集力ってすごかったよ。国会図書館まで行ったからね。ついにはモリスで卒論まで書いたし。

で、結局、佐伯はこのジェーンがモテた最大の秘訣にたどりつくことができたのですが、それを知った瞬間、ああ、これは自分には無理だと悟り、あきらめた。

人間には生まれ持っての性質というものがある、そして、それは佐伯には到底守れないことでしたから。

ラファエル前派の最大のミューズ、ジェーンの「モテ」の秘密はですね。

「無口」でした……。いや、ほんとに。

キレイな人がなんにも言わずにたたそこでシンとしてると、遊び慣れた男ほどなにかを掻き立てられるものらしい。しかも彼女は人の妻。おまけに夫はアーツ・アンド・クラフツ運動の中心人物、ウイリアム・モリス。まあスリーカードってやつですよね。これだけそろってたらそりゃモテる。

だけれどもこのジェーン、自己主張があまりなかったのと、無口だったのはただ単に語るべき内容がなかったから、なんていう意地悪な評論家のコメントもあったりして、結局、自分に与えられた「モテ」を幸せに活用することはできなかったらしい。

まさに「薄幸の美女」の典型。晩年は孤独だったそうです。

そう考えると、ヒギンズ教授を蹴っ飛ばしたマイフェアレディ、アニー・ミラーなんかはしっかり玉の輿婚をして社交界の仲間入りを果たしてるから、実人生で勝ちに行くなら、こっちのほうがいいのかもしんない。

ロマンはどこだ。