ハプニングバーに行ってきました。そこで見たのは…

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 【佐伯紅緒のスーパーカミオカンデ】第119回

のっけから衝撃的なタイトルで恐縮ですが、取材です、はい。しかも、付添い。

その晩はいま書いてる小説の取材をしてたのですが、無事に取材が済んだあと、同行のIさんがふと私に言いました。

「佐伯さん、これからちょっと、この近くにあるハプニングバーの取材に付き合っていただけませんか?」

ハプニングバーというのをわかりやすく説明しますと、

「カップル、レズ、おかま、SMマニア、女装マニア、露出症や窃視症など、性的にいろいろな趣味を持った男女が集まり、客同士で突発的行為を楽しむ、バーの体裁をとった日本の風俗。ハプバーなどと略される」

です。

聞けば、Iさんは今、ハプバーを題材にした企画を考えているそうで、ひとりでは入れないので一緒に来てくれませんか、とのこと。

相手が紳士のIさんでなかったらお断りしていたところですが、まあ長い人生、いちどくらいはそういうものを見てもよかろう、とついていきました。

場所は都内某所の繁華街にある雑居ビルの一室。

表札もなにも出ておらず、キッチリと会員制です。

インターフォン越しにIさんが名前を名乗ると、ドアを開けたのは店のオーナーらしい、バーテン風の中年男性。

「失礼ですが、当店のシステムはご存知ですか?」

どうやら取材であることが伝わってないらしく、Iさんがその旨を伝えると、オーナー氏はていねいに以下の説明をし始めました。

・男性は身分証明証の提示が必要であること

・男性は五千円、女性は無料(カップルは七千円)

・男性のみ年齢制限あり(女性はなぜかないらしい)

・店内では決して笑ったり、茶化したりしないこと

・客同士のアドレス交換などは一切ご法度

・店内で何が起こっても基本的には自己責任

……他にもいろいろ言われましたが、すみません、忘れました。

店の体裁は、ひとことでいうとパッと見は「薄暗いおうち系カフェ」。

バーカウンターがあり、白いバスローブを着た男女が仲よさそうに喋っています。

上にはロフトになった小部屋があり、気が合った男女(男男、女女、男女男、でもOK)はその部屋に行って一時間千円(男が払う)で、あんなことやこんなことができるらしい。

そして、外野がその様子を自由に覗くことができるらしく、小窓の外にはご丁寧に観覧用のつり革までついている。

聞けば先週の連休などは大混雑で、立錐の余地もなかったらしい。ほとんど地獄絵図、いや失礼、ボッシュの「悦楽の園」の世界です。

そんな中、ソファに座った私はさながらカーボンフリーズされたハン・ソロのごとくコチコチになり、ぽっちゃりした可愛いロングヘアの店員さんに桃の紅茶などを淹れてもらってました。

隣には単身やくざの事務所に乗り込んだこともあるという、めっちゃ修羅場慣れしたIさん。

向かいにはいつの間にかガウン姿のホリエモン似のお兄ちゃんと、その友達らしい、ツルンとした感じの背の高いお兄ちゃんがいてこっちを見てる。

囲碁だったら完全に死んでいるポジションです。

ところが、このふたりが意外と親切で、明らかに取材目的の我々に丁寧に応対してくれたのでした。

「おれら単男(たんだん:男性ひとりの客)同士で、ここで知り合ったんですよ。今でもお互いニックネームしか知りません。でも、今日はふたりして同じクリニックで玉毛剃ってきました」

「たまげ?」

「そうです。すごく気持ちいいですよ。さっきカウンターでみんなに一通り触ってもらいました」

聞けば、ホリエモンのほうは体操選手、ツルンのほうは商社マンだそう。

「ここ、常連が多いんですよ。今日は金曜の晩なのに、こんなにすいてるの珍しいです。それでも、さっきまでは何組かがやっててすごかったですよ。みんな、こないだの連休で疲れが出ちゃってるのかなあ」

いつもならその辺を全裸のおじさんが歩いていたり、裸にエプロンだけつけた女の子がふつうに座っているという。その人たちがいきなり目の前で始めちゃっても、みんなあたたかく見守ってるんだそうです。

「ここに来る常連の女の子たち、おれみんなやったことありますけど、あとくされなんてないですよ。お互い、余計な干渉しないからものすごく平和です。ここのみんなはやさしいし、社会的にちゃんとした人ばかりです。みんなみんな、非日常を楽しみたくてここにやってくるんですよ」

聞けばホリエモンにはちゃんと彼女が、ツルン君には奥さんがいるという。それでもはめをはずしたくてここに通ってくるんだそうな。「愛」と「性」が完全に別モノになっている。

結局、お店にいるあいだ、男女の「そういった場面」は一度も見ることができなかった。Iさんはあまり取材にならなくて残念そうだったけど、私は正直ホッとした。

本音の本音をいってしまえば、「どうか目の前でそんなことやってくれるな」と心のATフィールドを全開にしてたから。

ただ結論から言うと、衛生面の心配さえクリアできれば、こういうお店はあっていい、と思った。お店にもお客さんにも好感が持てたし、こういうお店、この先もっと需要が増えてくるはず。

ホリエモンもツルン君も「自分は解放されたくてここに来てます」と言った。きっと心からの声だと思う。みんな、そんなに縛られてるのか。

以前、新宿二丁目のレズビアンバーというのに連れて行かれたことがあるけど、そこの人たちは明らかにガチで「そのようにしか生きられない」人たちだった。

実をいえば、むかし私がお付き合いしていた男性にも「そういう人」がひとりいた。

その人は自分が「そういう人」であることを私に隠し、私は私で彼が「そういう人」であることに気づいているのを隠し、という、さながらジョジョのスタンド心理合戦みたくなってしまい、結局だめになったんだけど、お互い、ほんとうに疲れたのだった。

人の性癖っていろいろだから、基本的には他人様に迷惑をかけなければ何をやっても構わないと思う。人には秘密があっていいし、これでスコヤカに人生のバランスがとれるなら安いもの。

ただ、ハプバーに来るのは二丁目の人と違い、基本的には普通の人だ。そういう人が、誘蛾灯に誘われる蛾のようにユラリユラリとやってくる。以前だったら誰にも言えず我慢してたような軽度の変態趣味の持ち主にも、それなりの多様化した受け皿が出来はじめているんである。

「また遊びに来てくださいね」

おいとまする我々を、ホリエモンはそう言ってわざわざ玄関まで見送ってくれた。

その優しさに触れた瞬間、チクリと胸が痛んだのはなぜだろう。