ブルー・オーシャンでゆこう

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【佐伯紅緒のスーパーカミオカンデ】第118回

競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」というのに対し、競争のない未開拓市場を「ブルー・オーシャン(青い海、競合相手のいない領域)」というそうです。

はい、もうおわかりですね。大抵の女性はそれに気づかず、「レッド・オーシャン」で泳ぎ続けている。

 

佐伯の大学時代、キャンパスにイケメンの教授がいた。

その先生のゼミはいつも満員で、それはもう女子学生に大変な人気があったんだけど、その先生、どんなにキレイな肉食系女子大生にコナかけられても見向きもせず、結局、彼が奥さんに選んだのは、教室の隅にポツンと座って真面目に講義を受けていた女の子だった。

先生の方から積極的に近づいていったそうである。

佐伯はたまたまこの女の子と飲み会で隣同士になったことがあるんだけど、帰国子女だった彼女、失礼ながら初対面の印象はあまりパッとしない感じだった。お酒もあまり強くないらしく、その場にいても何を話すわけでもなく、ただニコニコと笑っている。

ところが、私が前の年にバイトして貯めたお金で行ってきた海外留学のことを話し、英語を忘れたくないのでいまも自分で勉強をしてるんだ、と言った途端、地味だった彼女の目がキラリと光り、私に向かってそれはもう優しい、しかし堂々たる口調で言ったのだ。

「Try. I’ll check it.」

その瞬間、女の私でも背中にゾクリとなにかが走ったのを覚えてる。

結局、佐伯がこの飲み会で彼女の肉声を聞いたのはこの一瞬だけだった。そりゃイケメン教授もやられるよなあ、としみじみ思ったものである。

「レッド・オーシャン」で競争に勝つのは、たいていこういう人である。そこが激戦地だということにすら気づかず、フラリとやってきて釣り上げる。そういう釣り師は欲を出さないから、お魚のほうで警戒心をなくすんでしょうね。

だけど当然のことながら、普通の恋愛市場においてそういう僥倖に預かる確率は低い。

だから佐伯は機会あるごとに、狙うなら「ブルー・オーシャン」だよ、と奨励しているんだけど、世の中にはほんとうに、親のカタキのごとくムキになって「レッド・オーシャン」で泳ぎ続ける女性が多い。

エグザイルの誰かに出会いたいがために休日のたびに中目黒あたりを意味もなくウロウロするとか、岡田准一と結婚することだけを何十年も夢見ているとか、岸田秀先生ではないけれど、もうここまでくると生存本能が壊れているとしか思えない。

もっとも岸田先生によれば、人間は生存本能が壊れているからこそ恋愛をするらしいのだけど、それにしたってあんまりである。そして驚いたことにこういうの、けっこう可愛い子に多いの。

だからそういうのを見るたびに、あーもったいないよーって佐伯は思う。

だって、「ブルー・オーシャン」って、いいお魚いっぱいいるんだもの。

だから「レッド・オーシャン」のど真ん中にいる男性に「たまたま」惚れてしまったというならともかく、もしもそうでないのなら、佐伯は「ブルー・オーシャン」に飛び込むことをお勧めする。

決して、妥協なんかじゃない。ホンマグロは三崎や大間だけにいると思ったら大間違いだ。

あなたの行きつけの店でいつも隣に座ってる寡黙な彼、図書館の隅っこでいつも六法全書を開いている近眼の彼、駅前のスタバで毛玉の浮いたセーター着てネームやってる漫画家の彼、探せばいくらでもいるいるいる、「ブルー・オーシャン」で泳ぐお魚。

もちろん、男女って相性だから、いちがいに色分けしてしまうのはどうかと思うんだけど、同じ相性のいい人なら、激戦地にいる人よりも、そうでない場所にいる人とのほうが手に入る確率は高いにきまってる。

いい男はたいていすでに「レッド・オーシャン」に棲息してると思いがちだけど、そんなことはないないない、人見知りだったり要領が悪かったりで、誰もいない北極海みたいなところで泳いでるお魚っていっぱいいる。それに万人受けする必要はなく、ようは自分にとっての「ブルー・オーシャン」な人であればいいのだ。

だから、映画「ゼイリブ」じゃないけど、生活圏内や旅先で自分にとっての「ブルー・オーシャン」男を見分ける特殊メガネがあったらきっとノーベル賞だよな、って思う。そして、一見よさげでも中身はアレな「ブラック・オーシャン」男を見分けるメガネも然り。ああでも、そんなメガネがあったら、また別の問題が起こりそうだ。