【恋愛遊戯 29話】
高村さんは、私が言い終わるのを待たずに唇で私の口を塞ぐ。思わず目をつむってしまい、見えないけれど、おそらく沢山の通行人が私たちを見ているだろう。こんな道の真ん中でキスするなんて、何を考えているの? 見境のない若いカップルではない私たちは、目について仕方ないだろう。
ーー高村さんと私はこの夜、激しく求め合った。おそらく2人とも理性を捨て、本能で抱き合った。貪るようにキスをし、体の上に舌を這わせる。わかりやすいくらい、身も心も全身が感じて反応していた。
高村さんの心を独り占めしたいよーー
不倫という関係は、いつだって言いたいことを言わせてもらえない。我慢を強いられる……そんな暗黙のルールがある。
不安定な、綱渡りをしているような恋愛に、いつまで溺れているのだろう。
「わざわざ、見送りに来てくれるなんて嬉しいよ。ありがとう」
「いえ、でも私が来てしまって大丈夫ですか?」
北海道に行く日、私は高村さんを見送るために空港に来ていた。家族や会社の人が来るかもしれないと思っていたが、空港に来る前に見送ってもらったようだ。
「3ヶ月くらいしたら一度、理恵子に会いに来るよ」
「本当?」
「そのときは、丸一日一緒に居たいな」
「嬉しい」
「理恵子、口数が少ないね?」
「うん、なんか上手く喋れないや」
「一生会えなくなるわけじゃないんだから……」
「……うん」
「理恵子、泣きそうじゃないか」
「泣いてないから大丈夫」
精一杯の笑顔を返した……つもり。しかし、目には溢れ出そうな涙がスタンバイしていた。
手を握ってほしいと思っていたけれど、それを口にすることが出来ないまま、飛行機に搭乗する時間ギリギリだった。
「それじゃ」
「ハイ」
高村さんは軽く手を上げると、直ぐに立ち去っていった。
「一生会えなくなるわけじゃない」
私は、この言葉に違和感を覚えた。もしかしたら……と思った。そして、この違和感が気のせいではないことが分かるまで、あまり時間がかからなかった。
高村さんが北海道に行ってから、数回のメールと1度だけ電話をした。
他愛のない会話をしていたが、この時はなかなか電話を切らせてくれなかった。高村さんが切らせてくれないのは珍しいなと思ったが、特別変わった様子はなかった。
そして、この日の電話を境に高村さんにメールをしても返事はなく、電話をしても出てくれなくなった。返事が欲しいとお願いしても、回答がない。どうして、連絡をもらえないの? 何かトラブルがあったの? 一生会えなくなるわけじゃないって、3ヶ月くらいしたら会いに来るって、丸一日一緒にいたいって……嘘じゃないよね。高村さんは、そんな人じゃないもの。だから、きっと事情があるはずなのに、私には全くわからない。
私は、彼を深く知っているようで、知らなかったんだ。
何とかして連絡を取れないかと考える日が続いた。
著:よしい美玲
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