言いたいことを言わせてもらえない……。

3986188769_4a357f979f_o

高村さんが単身赴任なんて……。

この先、さみしい気持ちをどのようにコントロールしようか、それとも離れたほうが2人にとって良いことなのか?  頭の中がグルグルしていた。

「急に呼び出してごめんね」

「いえ、大丈夫です」

お互いの会社の中間地点で待ち合わせてカフェに入った。高村さんは難しい表情で、視線はやや下に落としていた。私のことを考えてくれていたの?

「オレは、アールグレイ。理恵子は?」

「私も同じものを下さい」

「かしこまりました」

彼は、コーヒーではなく紅茶で、しかもアールグレイを好んで飲んでいた。コーヒーを飲んだあとの匂いが好きではないのだ。私も高村さんとカフェに入るときは決まってアールグレイを頼んでいた。

「理恵子、ごめんね」

「どうして謝るの?」

「北海道は遠いし、それに急な話だっただろう?  さみしい思いをさせてしまうから」

「さみしい思い?」

「なかなか会えなくなるからね」

「じゃあ、私が今までさみしい思いをしてなかったと思ってるの?」

「そうだな、オレにはカミサンが……」

「高村さん、わかってないよ……奥様のことじゃない!  私、ずっとさくらちゃんに嫉妬してる。どれだけ“位置づけが違う”なんて言われたって、高村さんは女として見てるから!  それに、2人が一緒にいるとこだって見たんだよ。でも、高村さんは、私のことなんて……」

ちゃんと見てくれなかったじゃない。いつだって、あなたの心の中を私で占領できなかったじゃない。私を抱いているときだって、私で100%埋めることはできなかった。それが精神的に1番キツかったのに……。

「理恵子」

「何ですか?」

「理恵子がそんなに感情的になるなんて、嬉しいよ」

「私が怒っているのが楽しいわけ?」

「違うよ。そんなに感情的になるくらい、オレのことを思ってくれているんだと思うから」

「高村さんのバカ……」

「あはははははは!  オレはバカだよな」

「高村さんなんて、嫌い」

「嫌いなの?」

本当に嫌いなわけがないじゃない。わかっているのに、どうして聞くの?  聞かないでよ。

「答えない」

「教えてよ」

「言葉の裏を読むのが男の優しさだよ」

「オレにはわからないよ」

「“わからない”んじゃなくて“わかりたくない”んたよ。今日はもう帰ります」

「理恵子!」

高村さんの声を無視してカフェを出た。振り返ったら、泣きそうな気がした。アラサー女が恋愛のことで泣くなんてみっともなくて恥ずかしい、罪なことだと思ってしまうのだ。

それなのに、彼は私を追ってきて「理恵子、待って!」と、呼び止める。

「え?」

高村さんは、私に声をかけるなり、腕を掴んできた。それも、かなり強くて少し唸ってしまうくらいだった。

「理恵子、ごめんね。理恵子にずっと悲しい思いをさせていたんだね。オレはバカな男だよ」

「私“なんか”を追いかけてくるなんて、高村さんカッコ悪いよ」

「理恵子は“なんか”って言える存在じゃないよ」

「あはは、そんなことをサラッと言えちゃうんだから、やっぱりカッコいいや。さっきのは撤回す……」

私の伝えたいことは、最後まで言わせてもらえなかったーー。

著:よしい美玲
———————————————————–
春乃れぃ主催 大人モテLAB
http://harunorei.net/active/